カナダ人のEMDRセラピストJames Knipeの継続研修を神戸で受けてきました。依存や回避への衝動をEMDRでどう扱うかが話のテーマでした。
依存症は、アルコール依存や、近年話題になっている脱法ドラッグへの依存、セックス依存など様々ありますが、トラウマ記憶に起因する依存症はだいたいどれもほぼ同じメカニズムで起こっています。アルコール依存の場合を例に、そのメカニズムを見ていきましょう。
フラッシュバックや、嫌な身体感覚の侵入が起こる苦痛から逃れるために「自己投薬的」に酩酊するまで過量の飲酒をつづける方がおられます。身体には害があるうえ、社会的にも迷惑をかけた結果、本人が社会的に孤立する結果になることがあるので、酩酊するまでの過量の飲酒は明らかに良くないことではあります。しかしトラウマ記憶によって、本人に「自分はどうしようもない人間だ」という否定的な自己認知が生じている場合は、飲酒して身体を崩すこと、酩酊して他者に迷惑をかけることが、「自分はどうしようもない人間だ」という否定的な自己認知の世界を、リアルに実現することになります。トラウマの問題が元でアルコール依存に陥る人の中には、ある意味こうした「自己懲罰的」な飲酒をしている人もいます。このようにトラウマの問題からアルコール依存にまで至る人も少なからずおられるます。EMDRの標準プロトコルをこのような方に行いますとアルコールの量が増えることがあると、EMDRのベーシックトレーニングでは習ったと思います。アルコール依存の問題を増悪させる危険性があるので、今までは明らかにアルコール依存の方から問い合わせをいただいた場合は、多くの場合まずアルコール依存から先に治してから来てくださいとご案内していました。
しかし依存症の方の「依存への衝動」は眼球運動を用いたEMDRの変法を用いることで扱うことができるようです。この方法を用いて、依存衝動や回避衝動が下がると、トラウマ記憶を扱いやすくなるそうです。眼球運動を用いた方法で衝動をターゲットにした脱感作を行うと、依存への衝動を下げていくことが可能なようです。
James Knipe氏の話を聴いたことで、EMDRをもっと柔軟に用いることができるようになれそうです。アルコール依存症の方にも、その方の状態にもよりますが、EMDRで対応可能な方もおられると思って対応していこうと考えるようになりました。
10代20代の方ですと、アルコール依存という形でなく、トラウマ記憶がもとでセックス依存症という形で問題行動を起こす人もいます。元アメリカの大統領のビル=クリントンが「セックス依存症」であることをカミングアウトしたことで知られるようになった病的問題行動の一種です。日本にも相当な数の方がこの問題行動で苦しまれておられるようです。こうした方の問題行動についても、問題行動の背後にトラウマ記憶がある場合は、アルコール依存と同様に、依存への衝動に焦点を当てて脱感作を行うことで衝動を下げていき、問題行動を鎮めることが可能なようです。