小学校時代にいじめられていた子が中学生になって、現実にはもういじめは起きていないはずなのに、小学校の頃のいじめを思い出して固まって怯えているというようなことはどこの学校でもよく起こることです。しかし前の学年や数年前の学年で起こったいじめ被害などは先生方からは見過ごされがちです。被害に遭った子どもにとっては思い出すと怖くなり、学校に近寄りたくないというPTSDの回避症状様の問題が出て学校に行けなくなる子もいます。
いじめ被害は当然トラウマになりえますが、教師から指導場面で一方的に「あなたが悪い」と公正さを欠いた指導をされたことがトラウマ記憶になって、学校に行けなくなる場合もあります。教師の指導が、子ども集団ののいじめを誘発していることもあります。教師が子どものいじめに加担するような事態も発生することがあります。こうなると子どもの心に大きなダメージを与え、被害に遭った子どもは深刻な症状を呈することがあります。EMDRの国際学会に行くと、school phobia(学校恐怖症)の治療にEMDRを用いた事例がときどき見られます。
聴覚系が過敏な子どもにとっては、大きな声で元気よく指導する先生の声が怖くて、それがトラウマになって学校に行けなくなることがあります。こうした聴覚過敏の子どもには、何パターンかあります。もともと聴覚処理能力が高過ぎる子。こういう子の中には学業成績が優秀な子がいます。授業中に教室に座っているだけで、先生の話す声が耳から入って来て記憶に残ると言うのです。こういう子は聴覚系が敏感であるがゆえに、強すぎる聴覚刺激には脆弱なことがあります。発達障害によっても聴覚過敏の問題が出る場合もあります。親からよく怒鳴られて育ったり暴言を浴びせられて育った子は、トラウマによって脳が過覚醒を起こした結果、聴覚過敏になることがあります。こうした聴覚過敏な子が声の大きな元気な先生のクラスに入ると、先生が他の児童生徒を指導するときの声でもトラウマになってしまうことがあります。
学校で性的被害に遭った結果、学校に行けなくなる子もいます。我が国でも教師からの性被害や同級生からの性的いたずらが明るみになって裁判で争われたケースが多数あります。性暴力被害は、なかなか表に現れにくい問題ですが一説によると、6人に1人の子どもが経験している、かなり頻繁に起こっている問題だと言われています。子どもの心に大きなダメージを与え、「自分がいけない」「自分がダメな人間だ」という自責感を強く植えつけられててしまうことがあります。
不登校児童生徒へのEMDRの脱感作は、親子の関係が良い場合は両側刺激を眼球運動ではなく、お母さんに肩などをタッピングしてもらいながら治療を進めることがあります。EMDRによるトラウマ治療は小学生でも十分に可能です。