教師のメンタルヘルスとEMDR

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小学校の教職員も中学校の教職員も長時間の労働時間を強いられ、休みがなかなか取れない中でよくがんばっておられます。以前、私がスクールカウンセラーとして中学校で働いていた頃にも、関わっている子どもたちの未来のために自分の個人的な時間を削って今できることを一生懸命やっている先生方をたくさん見てきました。長期休暇中は比較的有給休暇の消化はしやすい時期ですが、学校組織を運営するために分担している仕事を処理するために出勤しなければならなくなったり、学校内外の研修が多く組まれているので、子どもはいなくても長期休暇中の職員室は動いています。このうえさらに中学校の教員は部活の指導のための出勤をしなければなりません。担当する部活動が練習試合で遠方まで引率しなければならないこともあります。この場合は移動の高速道路代は顧問教員の自腹です。最低賃金にもはるかに及ばない形だけの手当てで土日の休日に働くことになります。

 こうした慢性的に休めない勤務状況がつづくストレスがあるうえに、先生によっては児童生徒からの対教師暴力や暴言の被害に遭うこともあります。保護者から暴言を浴びせられたり突き上げられた結果、うつ病の診断が出て休職に入らざるをえなくなる先生もおられます。少し古い数字ですが、2008年の福岡県の調査では病気を理由に休職した教職員のうち7割以上が精神疾患によるものだったということです。

 神戸の小学校では激辛カレーを食べるように強要される教職員同士のいじめが起こっていましたが、じつは教職員同士のいじめはけっこう頻繁に起こっています。「子どもに不快な思いをさせることで子どもの行動を修正できる」と信じている教師が多いからか、後輩教師や新人教師に対しても不快な思いをさせることで行動を変えようとするのかもしれません。教師が行なう行為は「愛のムチ」という言葉で正当化することもできます。自分たちの行なっているいじめ行動までも正当化させることができるのです。神戸の小学校のいじめ事件は、こういった教員特有の心性が背景にあったのではないかと考えることもできます。同様に上司からのハラスメント被害に遭うこともあります。「酒が入れば何をしてもいい」という文化が残っている地域では、教職員の酒席が終った後に、明らかな暴力被害に遭うこともあります。みんな過重な労働環境やストレスフルな職場で働いている結果、ストレスのはけ口をどこかに求めてしまうのかもしれません。こうしてブラック企業のような学校組織ができていきます。

この環境に学校時代にいじめ被害に遭われた方が、そのトラウマが片づいていないまま不用意に教員採用試験を受験し合格してしまったら、大変なことになります。複雑性PTSDのようなこじれた状態になって、治療を求めて来られる場合もあります。

 さまざまなトラウマを抱えながら教員生活をつづけて来られて、EMDR治療にたどり着かれる先生もおられます。こうした先生方の治療を行うと、抱えておられたトラウマ記憶が片づいていくにつれて、どんどん身軽になって行かれる姿を何度も見させていただいてきました。教師へのEMDR治療は、本来のその方の能力が発揮できるようにしていく、パフォーマンスを高めることを目的にしたEMDR治療になっていくことが多いです。

http://www.risorsa-emdr.com