いじめ被害の結果、PTSDの診断基準を満たすことは稀ですが、いじめ被害のトラウマが人生に深刻なダメージを与えることがあります。それ単体でも大いにその人の人生を蝕むことがありますが、いじめ被害のトラウマが厄介なのは、成長にともなって中学生、高校生と上の学校段階になってからや、または大学生や社会人になってから壁にぶつかったときや、過去にいじめられたときと似たようなシチュエーションにハマったときに、それまで封印できていた過去のいじめ被害のトラウマが暴れ出すことがあります。
他のトラウマ記憶と同じように「私なんかいらない」などの自己否定の言葉が頭の中で溢れ出して止まらなくなる人もいます。「自分なんか生きていても仕方がない」「自分なんか死ねばいいのに」と、未来の自分をも否定してしまうような自己否定の言葉が出てくるようになると、かなり深刻です。まったく未来に対して明るい展望を見いだせなくなるどころか、未来の自分を抹殺するために、まったく食べなくなるとか、あんまり寝なくなる、過度の飲酒をつづけるなど消極的な自殺行為をじわじわ進行させていく人もいます。
EMDRの標準手続きでは、その時のことを思い出しても否定的な自己認知が暴れ出すことがなくなるようにするための手続きとして、こうした否定的な自己認知に対抗できそうな相反する肯定的な自己認知の言葉をセラピストがいっしょに考えます。例えば否定的な自己認知が「自分なんか死ねばいいのに」であった場合、肯定的自己認知の言葉は「私は価値ある人生を生きることができる」またあるいは「私には生き抜く力がある」など、クライエントのそのときの状態やそれまで生き延びるためにとってきた戦略から得られたもの、信仰をお持ちの方の場合は宗教的背景をもとに言葉をいっしょに考えます。最終的には、フラッシュバックで出てきていた映像と、この肯定的認知の言葉を並べてもご本人がしっくりと感じられるようになるまで肯定的認知の言葉を植え付けていきます。結果的に、過去の苦痛な記憶を思い出しても自己否定の言葉が減少していきます。
それまでご本人の成長する力を妨げているトラウマ記憶やそこから出てくる否定的自己認知の再処理が進められるようにお手伝いしながら、クライエントの脳の中でスーッと再処理されていき、その人が本来のその人らしい人生をを取り戻されていくところに、セラピストとして立ち会わせていただくことは感動的ですらあります。