学校における緊急支援

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Welcome to school

熊本地震の被害に遭われたすべての方に、お見舞い申し上げます。

大規模災害に見舞われたときや学校生活でトラウマ的な事態に遭遇したとき、スクールカウンセラー(臨床心理士)による緊急支援が「心のケア」として行われることが今の学校教育では普通になっています。スクールカウンセラー(臨床心理士)が緊急の保護者会で、子どもの各家庭でのケアのしかたをレクチャーしたりすることもあります。表に出るのはそれくらいですが、裏方(職員室)ではかなり大変な作業を行います。トラウマ被害を受けて不安定になった大勢の子どもを対象にしたスクリーニングのための質問紙を現場の先生方といっしょに作成し、子どもたちからの回答を得ます。この結果と併せて先生方から見て気になる子どもの情報を収集し、トラウマ被害による支援が必要な子どもをピックアップしていきます。
ピックアップされた支援の必要な子どもの個別面接を行います。この個別面接では主にトラウマ反応についての心理教育面接を短時間で行います。短時間で行うのは、4時間で20人の個別面接を行わなければならないくらい過密で時間の制約があるからです。緊急支援の仕事はスクールカウンセラーにとっても大変な仕事になります。
熊本地震のような大規模災害が起こると、被害の大きかった地域の子どもたちが不安定になっていて、先生方も学校の教育活動がいつも通りには行えなくなります。例えば、それ以前まで何もなかった子が教室の中で授業中に5人も6人も不安定になって泣き出すような状態になると、授業を進めるのが難しくなります。学校のコミュニティ全体が危機的な状況に陥ります。緊急支援とは、学校コミュニティが教育活動を元どおり行えるように本来の機能を回復することを支援するという意味合いがあるそうです。これを配置校のスクールカウンセラー1人で対応できるときには1人でやりますが、対応が不能の事態になりますと、近隣の学校のスクールカウンセラーが応援に来てくれたりして数日かけて、学校コミュニティが本来の教育活動ができるようになるよう、子どもと先生方を支援します。私もスクールカウンセラーでいろんな学校を回っていた頃に、自然災害の緊急支援や不祥事による緊急支援、子どもの不慮の事故の緊急支援などをさせてもらえる機会がありました。
こういうときのスクールカウンセラーの腕の見せどころは、一人当たりせいぜい15分から20分という短時間の面接の中で、その子どもの発達段階に合わせた心理教育を行った上で、その子どもに応じた自己回復力や復元力(レジリエンス)を引き出す働きかけができるかにあります。以下、私なりに工夫していたことをまとめてみます。

まず心理教育についてですが、「トラウマ的な事態に直面すると多くの場合、人は過敏になったり緊張が高まること。その結果、眠りが浅くなるとか眠れなくなる人がいるのもよくあること」また「この現象は、危機的な状況に陥った健康な人が体験する健康な反応」だということを伝えなければなりません。しかし例えば小学校低学年の子どもに、このことを分かるように説明するにはかなりの工夫が必要です。私がよく用いていたのは、動物メタファーを用いた心理教育でした。「例えば、おサルさんの群れが地震に遭って仲間がケガをしたり家が壊れたりしたら、『これは大変なことが起きた』と、周りにいたお猿さんたちは自分に危険が襲って来ないように体を緊張させて身構えるでしょう?危険に備えて緊張しているから、いつもより敏感になって小さい物音にもビクってなるよね?」「人間の場合も同じことで、地震で被害に遭ってすぐのときは、危険に備えて敏感になったり緊張して身体の感じがいつもと違うように感じられたり寝つきが悪くなるのが普通の反応よ」「たいていは危険が過ぎたら元に戻るから、そんなに心配はないよ」というふうに伝えると大体は伝わっていました。高学年の子どもを相手にするときは、「脳の中の動物的な部分が身を守るために行っている自然な反応」とかいう説明を加える場合もありました。
自己回復力や復元力(レジリエンス)を引き出す働きかけについては、その子どもにとって最も安全に感じられるときはどんなときか、または生活の中で最も充実した楽しめる時間は何かを聞き取り、その子の状態をアセスメントして、その子のそのときの状態でできそうな具体的な課題を出していました。例えば「キミはダンス教室でダンス習ってるときが好きなら、しばらくダンスの練習して身体を動かす機会を多く作ってごらん。身体動かす中で、だんだん元のあなたを取り戻せるから」とか「キミはお母さんに話を聞いてもらってるときが安心できるのなら、しばらくの間しっかりお母さんに話を聞いてもらう時間を作ってもらおう」と、具体的な課題を出して回復の道筋を示してあげることが、子どもたちにも先生方にも喜ばれていたようでした。
熊本県で活躍されているスクールカウンセラーのみなさんや現場の先生方はしばらくの間、通常業務以外の緊急支援の対応に追われて大変かと思いますが、それぞれの方の創意工夫で乗り切ってください。

http://www.risorsa-emdr.com

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